東京地方裁判所 平成9年(ワ)20957号 判決 2000年2月29日
原告
真岩邑宜
ほか一名
被告
田中充興
ほか小三名
主文
一 被告らは連帯して、原告真岩邑宜に対し、一〇五七万七三九四円、原告真岩優子に対し、九〇七万七三九四円及びこれらに対する平成一一年一二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らのその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを四分しその一を被告らの、その三を原告らの負担とする。
四 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告らは連帯して、原告真岩邑宜に対し四三一八万八九三六円及び内三七九九万八九三六円に対する平成一一年一二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告真岩優子に対し四〇八六万〇八七六円及び内三五九五万〇八七六円に対する平成一一年一二月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
第二事案の概要
一 本件は、信号機により交通整理の行われている交差点における対向して進行してきた右折車と直進車の衝突により右折車の同乗者が死亡した事故において、死亡した同乗者の相続人である両親が、双方の車両の運転者と所有者に対して、民法七〇九条、自賠法三条に基いて損害賠償を請求した事案である。
なお、立証は、記録中の証拠関係目録記載のとおりであるからこれを引用する。
二 争いのない事実等
1 本件事故の発生
(一) 日時 平成六年一〇月九日午前五時三五分ころ
(二) 場所 東京都世田谷区瀬田五丁目四一番先交差点
(三) 事故車両
(1) 被告関車 軽四貨物自動車(品川四〇ふ七〇三七)
運転者 被告関玄達
所有者 被告小倉充子
同乗者 亡真岩伸明(以下、「亡伸明」という。)
(2) 被告田中車 普通乗用自動車(八王子五六な六九三六)
運転者 被告田中充興
所有者 被告田中敏夫
(四) 事故現場の状況
本件事故現場は、別紙「現場見取図」のとおりであり、南東方(蒲田方面)から北西方(高井戸方面)に走る、いわゆる環状八号線と西方(岡本方面)から東方(渋谷方面)に走る区道裏通りが交差する信号機により交通整理の行われている交差点である。交差する双方の道路からの交差点に対する見通しは良好であった。双方の道路とも時速六〇キロメートルの速度制限がなされていた。
(五) 事故態様
被告田中車は、環状八号線を蒲田方面から高井戸方面に向けて片側五車線の進行方向左から三車線目(左側二車線は右折車線)の道路を直進して本件交差点に進入し、環状(ママ)八号線を高井戸方面から蒲田方面に向けて片側五車線の進行方向左から一車線目の右折車線を右折しようとしていた。
本件交差点において被告関車の左側面に被告田中車の全部が衝突し、この衝突により被告関車の前部助手席に乗車していた亡伸明が胸腔内臓器損傷のため、搬送された国立東京第二病院において死亡した。
(六) 責任原因
2 亡伸明は、昭和四一年一二月一〇日生まれであり、本件事故当時二七歳であった。原告真岩邑宜(以下、「原告邑宜」という。)及び原告真岩優子(以下、「原告優子」という。)は、亡伸明の両親であり、亡伸明の死亡により、亡伸明の権利義務を法定相続分である二分の一の割合で承継した。原告らは、自賠責保険から、平成一一年一二月一三日に各二六六六万〇八四〇円の支払を受けた。
三 損害
1 治療費 一三万七四八〇円
2 葬儀費用 二八〇万円
なお、葬儀費用は、原告邑宜が支出した。
3 逸失利益 五八一五万九五七二円
基礎収入を平成七年度の大卒男子の全年齢平均賃金(六七七万八九〇〇円)、生活費控除率を五〇パーセントととし、これに労働能力喪失期間である四〇年(六七歳まで)に相当するライプニッツ係数(一七・一五九〇)を乗じて算定すべきである。
(計算式)
677万8900円×(1-0.5)×17.1590=5815万9572円
4 慰謝料 四〇〇〇万円
亡伸明本人分二〇〇〇万円、原告らの固有の慰謝料各一〇〇〇万円。
5 弁護士費用(右の合計額の一割相当) 一〇一〇万円
6 合計 一億一一一九万七〇五二円
四 争点
1 事故態様
被告関及び小倉は、本件交差点を右折する際、本件交差点においては右折矢印の青信号表示がなされていたと主張し、事故の責任はすべて被告田中充興にあると主張し(この主張が事実であれば、被告田中車側の信号は赤色を表示していたことになる。)、被告田中側は、本件交差点は青色信号表示がなされていたもので(この主張が事実であれば、被告関車側の信号は、右折矢印の青信号表示は出されていなかったことになる。)、本件事故の責任は被告関の方がより大きいというべきである。
2 原告らの損害
被告関、被告小倉及び被告田中らは、いずれも原告らの損害について争うほか、特に、被告関及び小倉は、被告関及び小倉との関係では好意同乗減額がなされるべきであり、また、搭乗者傷害保険一〇〇〇万円が原告らに支払われている事実があり、相当額を控除すべきであると主張する。被告関及び小倉は、さらに、弁護士費用について、原告らは双方の車の自賠責保険の限度額である六〇〇〇万円については、被害者請求という簡易な方法により支払いを受けることができたのであり、この額については弁護士費用を減額すべきであると主張する。
第三裁判所の判断
一 事故態様
本件においては、事故当時の信号関係については、証拠(甲第八号証の四、五、被告田中充興及び被告関玄達の本人尋問の結果)によれば、事故後一貫して、被告関車の運転者である被告関が本件事故当時、右折矢印の青信号表示がされていたと述べており、被告田中車の運転者である被告田中充興も本件事故当時、対面信号が青色表示をしていた述べていることは認められるものの、どちらの主張もそれ以上に裏付ける証拠はない。本件においては、被告関の免責の主張を認めることはできない。なお、被告田中車の速度は両車の損傷具合から見て時速七〇キロメートル程度であったと認定できる(甲第一四号証は計算根拠等が示されておらず採用できない。)。また、被告関車は前照灯を点灯していなかったとは認定できない。
したがって、被告関と被告田中充興は共同不法行為が成立するというべきであるから、その過失割合にかかわらず、原告らの損害についてその全額を賠償すべきであると解されるので、これ以上、過失割合について判断することはしない。
二 被告関及び被告小倉は、亡伸明は、被告関車に無償で同乗していたものであるから、好意同乗減額が認められるべきであると主張するが、好意同乗減額については、同乗者にも飲酒運転であることを承知して同乗したような帰責事由がある場合に限って認められるべきであり、そのような事情の窺われない本件においては、好意同乗減額は認められない。なお、弁護士費用についての主張がなされているが、本件においては、被害者請求がなされているので、この点については主張の前提を欠いたものというべきである。
三 損害
1 治療費 一三万七四八〇円
甲第六号証の一及び二により認める。
2 葬儀費用 一五〇万円
甲第九号証一ないし七によれば、二八〇万円余の葬儀費用を支出したことが認められるが、このうち、相当性が認められるのは一五〇万円である。なお、弁論の全趣旨から、葬儀費用は、原告邑宜が支出したと認める。
3 逸失利益 四九三三万八九八八円
亡伸明は、平成四年三月に東京芸術大学を卒業し、平成六年三月に同大学大学院の修士課程を修了したと認められる。なお、平成五年から、新宿美術学院に勤め平成五年の年間給与は、一一八万二三五〇円(甲一六号証の二)、平成六年は一三八万二九一七円(甲一六号証の三、但し、一〇月三一日まで)と認められる。これはアルバイト的な収入と評すべき性質のものとも考えられ、これを基礎収入として亡伸明の逸失利益を考えるべきでないことはいうまでもないが、亡伸明は、修士課程修了後に新宿美術学院の勤務を継続していたのは事実であり、修士課程中の平成五年より修了後の平成六年の方が若干、収入が増加しているものの、これは大卒男子の同年代の平均賃金(四六一万九二〇〇円、但し、平成九年)ばかりか、同年代の学歴計の平均賃金(三三〇万八五〇〇円)と比較しても低い額となっている。そして、亡伸明について他に就職先が内定していたような事実は窺われない。これらを考慮すると、亡伸明が生涯を通じて大卒男子の全年齢平均賃金を得る蓋然性については、これを認めることができない。
しかしながら、亡伸明が若年であることを考慮すると、生涯にわたっては学歴計の男子全年齢平均賃金程度の収入を得る蓋然性があると認められるので、基礎収入を平成九年度の男子全年齢平均賃金(五七五万〇八〇〇円)、生活費控除率を五〇パーセントとし、これに労働能力喪失期間である四〇年(六七歳まで)に相当するライプニッツ係数(一七・一五九〇)を乗じて算定すべきである。
(計算式)
575万0800円×(1-0.5)×17.1590=4933万8988円
4 慰謝料 二〇〇〇万円
慰謝料については、亡伸明本人分及び原告らの固有の慰謝料を含めて、総額で二〇〇〇万円を相当とする。なお、本件においては、被告小倉が保険料を負担している搭乗者傷害保険から一〇〇〇万円が支払われている事実は認められるが、被害者請求がなされていること等も考慮し慰謝料の算定においては斟酌しない。
5 小計 六九四七万六四六八円
6 填補後(合計五三三二万一六八〇円差引) 一六一五万四七八八円
7 弁護士費用 二〇〇万円
8 原告らの認容額
原告邑宜 一〇五七万七三九四円
原告優子 九〇七万七三九四円
第四結語
よって、原告邑宜の請求は一〇五七万七三九四円、原告優子は九〇七万七三九四円及びこれらに対する自賠責保険金の支払いのあった日の翌日である平成一一年一二月一四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるのでこれらを認容し、その余の請求は理由がないのでこれらを棄却し、訴訟費用について民訴法六四条、六一条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 馬場純夫)
別紙図面第二 現場見取図